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【指先】
夕飯を終えた頃から、気温はみるみる下がっていった。
今日はクリスマスイブの前日だ。明日、明後日のクリスマス本番は大学の授業もなく、朝から晩までアルバイトの予定で埋まっている光流にとっては、その代わりにもぎ取った貴重な休みの日だった。
光流はテレビのバラエティ番組を眺めながら、こたつの中に入れた手をこすり合わせた。
冷え切った手が赤外線にさらされて、じん、と痺れる。
指先は冷えて固かった。室内にいるにもかかわらず、だ。借りているアパートの安普請さときたら、高校時代をすごした緑林寮をも凌ぐありさまだった。
家賃9万円、2LDK、大学に通うのにもさほど苦痛を感じない場所の物件となると、そう多くは望めない。
その厳しい条件に合う2階建て木造アパートの2階に入居が決まったのは、大学に入学する直前のことだった。
隙間風が四方から吹き込む部屋ではあったが、唯一の暖房器具であるこたつの中は充分に暖かい。こたつは寮時代から使い続けているのであちこち傷ついて年季は入っているが、機能には何の問題もなかった。
アパートは和室を強引に洋室に改修してあるので、床はフローリングだった。冷気を輻射するその床板の上に、こたつ用のマットを敷いてその年代物のこたつを使用しているのだが、マットの感触もよく実に快適だ。
誰が何と言っても、これでよいのだ。たとえ、凍傷になるんじゃないかと思うような、低い室温の部屋であっても。
正面に座る同居人を見る。
忍は光流の視線には気付かず、雑誌に目を落としていた。
2人で暮らし始めた最初の夏、忍はエアコンを買おうと主張した。しかし、光流はその主張を退けた。エアコンなどという贅沢品は、親の脛を齧っている身にはもったいない。
浪人した挙句、私学の医学部に通い、尚且つ家を出るわがままを重ねている光流だ。
学費は全額、親に出してもらっている状態だった。生活費だけは辛うじてバイトで捻出しているが、何か特別な出費があれば、それもままならなくなる。そのことを思うと、普段の生活は少しでも質素にいきたかった。
エアコンを買わないことを光流が一度押し切ると、忍はそれ以降、文句を言わなくなった。
緑林寮ではエアコンはおろか、火を使用する暖房器具は使用禁止だったから、暑さ寒さに耐える生活には慣れていたのだろう。
光流がそう思うのには理由がある。アパートではじめて迎えた冬、灯油ストーブを買おうかと光流が提案したときに、今度は忍のほうが『一酸化炭素中毒になるのは嫌だ』と反対したのだ。
それで結局、夏は扇風機に冬はこたつと、寮と変わらない過ごし方を続けている。
慣れだ。人間、慣れてしまえば大抵のことには辛抱できるのだ。
暖かくなった手をこたつから出し、先程まで湯気を立てていたカップに触れた。すでにカップは冷えきっていて、半分ほど残っている液体はアイスコーヒーになっている。
この程度でため息をついていたら呼吸困難になる。光流は息を呑んでため息をこらえた。冷たくなってしまったのなら、入れなおせばいいだけの話だ。光流は忍の分のアイスコーヒーも持って立ち上がった。
一歩足を踏み出した時、思わぬ引っ掛かりに驚いた。
「うわっ…!」
足にこたつのコードが絡んでいた。バランスを崩した体が傾くのを支えようと足を踏んばると、ぶちっと嫌な感触が伝わってきた。
何事かと雑誌から目を上げた忍は、光流が何をしでかしたのか即座に気付いたようだった。こたつの中を覗く。そして、光流以外の人間には決して見せない究極の仏頂面を上げた。
「…切れてる」
「…判ってるよ」
「どうするんだ」
「どーもこーもねーよ。…明日、買って来るしかねーだろ…」
明らかに光流の不注意で壊れてしまったのだ。こたつの代金は自分持ちだろうと思い、頭の中で少ない預金を数えていると、忍が大げさなため息と共に立ち上がった。
「何だよ」
「風呂をいれるんだ。さっさと寝てしまった方がいいだろう」
言われたことはもっともだった。こたつが冷え切ってしまう前に風呂で暖まって寝てしまった方がよい。忍が風呂場に向かうのを背に、再び光流は足をこたつに突っ込んだ。
内部はすでに熱を失いつつあった。風呂に湯を張るのに10分はかかる。こたつを壊してしまった光流の立場は弱いから、二番風呂になることは間違いない。こたつの暖がいつまでもつのかが問題だった。
風呂場から、勢いのよい水音が聞こえてくる。
しかしなぜか、忍はなかなか戻ってこなかった。
何をしているのかと訝しく思っていると、こんどは水音が止んだ。
忍が戻ってくる。
「なんでお湯止めんだよ?」
忍は、奇妙なほど無表情だった。
そして、告げた。
「湯が出ない」
「…はぁ!?」
光流は風呂場に走り、湯の蛇口をひねって水を流す。しかし、いつまでたっても湯気の上がる気配がない。それどころか勢いのよい冷水は周囲の温度を更に下げたようだった。
リビングに戻ると、忍が申し訳程度に設置されているキッチンに向かっていた。シンクに水を流している。しかしすぐに止めてしまい、振り返った。
「給湯器が壊れたようだな」
「な、にぃ〜!?」
目の前が真っ暗になる。
こんな表現は比喩でしかないだろうと思っていたが、実際に視界が狭まるような感覚に光流は、ああホントに暗くなるんだななどとぼんやり考えた。
「光流、意識を保て。死ぬぞ」
忍のいつも通りの冷静な声にはっとする。
吐く息が白い。それは室内においてもいつも通りの光景だが、いつも以上に寒々しく感じられた。
しかも、忍は更に寒くなるようなことを言う。
「安心しろ。国道沿いのディスカウントストアは11時まで営業しているぞ。お前の愛車で飛ばせば15分ほどだろう。閉店には間に合う」
「結局、凍死しろっつってんじゃねーか!」
愛車とは、光流が通学その他に重宝している、自転車のことだ。
中古で5千円で購入したそれは、いわゆる『ママチャリ』という部類の自転車で、前部のカゴはややつぶれ、チェーンは錆びてペダルは重く、サドルはぼこぼこ、後部の荷台はナナメに曲がっている、そんな乗り物だった。
こたつを壊したのは光流のミスだが、それでもこの寒い中、アレでこたつを買いにいく選択肢はありえない。
忍は呆れたように言った。
「死ぬわけないだろう?この程度の寒さで」
先程とまったく逆なことをしれっというのが憎たらしい。光流は目の前の涼しい顔に歪んだ笑顔を向けた。
「…そーいやお前、長野出身じゃねーか…。寒さには慣れてるだろう…?」
「寒さには慣れているが、お前のボロ自転車には乗り慣れていない」
「ボロ言うな!…とにかく買いに行くのはなしだ。こんなに寒くちゃ遭難する」
「…じゃあ、どうするんだ」
「風呂ナシでさっさと寝る」
安アパートの風呂には、追い炊き機能はついていなかった。光流はほんの少しだけ、家賃9万円にこだわったことを後悔した。
忍は眉間に皺を寄せる。
「嫌だ」
「じゃ、どーすんだよ!銭湯に2ケツで行ったって、帰ってくるまでに凍るぜ!?」
一番アパートに近い銭湯も、自転車で10分はかかる。一度温まった体で寒風にさらされるなど、考えたくもない。
「…風呂はなんとかなる」
忍は視線を台所に向けて、言った。
光流はすぐに、忍の言わんとするところを理解した。
「えー…。まあ、できねーことはねーだろーが…」
「…できる」
普段以上に真剣みを帯びた表情の忍は、2年前の入居時に購入した二口コンロのガステーブルに、1.5リットルのやかんを載せた。
ぴぃーっと耳障りな音をたてて、やかんが光流を呼んだ。
二口のコンロには、やかんと、2人の持つ調理器具の中で一番大きな土鍋がそれぞれかけられている。お湯が沸くたび、交代で湯を浴槽に入れに行く。今回は光流の番だった。
光流はすっかり室温に近くなったこたつから抜け出した。背にかけていた冬用の掛け布団をその場に落とし、寒さでかたくなった腰を伸ばす。
忍もまた、掛け布団を背にかけて、いつもよりやや背を丸めてTVに見入っている。雑誌を読むのを止めたのは、布団から手を出していると寒いからに違いない。
ガステーブルに近付くと多少は暖かいが、息の白さが解消されるほどではなかった。
かじかんだ指にやかんの取手は熱すぎる。鍋つかみで慎重に取手をつかむと、冷え切った風呂場に運び込んだ。
浴槽の蓋を開ける。
すると暖かな湯気が一斉にあふれ出した。本当にこんな方法で湯が溜められるのか、いまいち不安であったが、忍の言う通り、今のところいい具合に事は進んでいた。現在は適量の四分の一ほどだ。
やかんの中身を浴槽にあけると、貴重な熱を逃がさないようにさっさと蓋を閉める。このまま努力すれば確実に暖かなお湯につかれるだろう。明るい未来に光流は鼻歌をもらした。鼻歌と共に漏れる息は相変わらず白かったが、そんなことはすでに気にならないくらい機嫌が上向いていた。
空のやかんを持って台所に戻ると、土鍋のほうも湯が沸いていた。
貴重なお湯だ。いつまでも沸騰しっ放しではもったいない。光流は慌ててやかんに水を満たしてコンロにかけると、土鍋のかかったほうのコンロを消した。
今度は土鍋を抱えて風呂場に向かう。
そこで、順番を間違えたことに気が付いた。
風呂場のドアはきっちりとしまっていた。そうしないとリビングに冷気が入って来てしまうからだ。しかし、土鍋を両手抱えていては、当然ドアを開けることはできない。
今までは、土鍋を持って行くときは、あらかじめ風呂場のドアを開けていた。しかし今回はやかんを戻したときにあまりにもタイミングよく沸いたので、そんなことも失念して先に運んできてしまったのだ。
しかし一度台所に戻って土鍋を置き、風呂場のドアを開けてから再び運んでくるのは面倒だった。しかもそんなことをすれば、土鍋の湯温はその分だけ下がってしまう。
光流は、足で風呂場のドアを蹴ってみた。建付けの悪いアルミ製のドアはがたがたと揺れはしたが、頑固に閉まったままだ。
それでこんどは、土鍋の取手を掴んだまま、ドアのノブに手を寄せてみた。
やり辛くはあったが、ノブに手をかけることはできた。慎重に指2本を使ってノブを廻す。
意外と簡単だと思った。
指の引っかかりのみでノブを廻しきり、ドアを足で蹴り、開いたと思った途端。
土鍋を持つ手が滑った。
自分的にもあり得ないような悲鳴が、光流の喉からほとばしった。
右足の太ももから下にかけて熱湯を浴び、熱いどころかあまりの痛みに悶絶する。しかし頭は血の気が引いて冷たくなり、何も考えられなくなった。
「どうした!?」
忍が風呂場に飛び込んでくる。すぐに何が起こったのか悟った忍は、痛みに硬直している光流を浴槽の縁に乱暴に座らせた。
忍は正しい。間違ったこともたくさん仕出かすが、概ね正しい。風呂に湯が順調に溜まりつつあったように、正しい。
だからその処置も正しいものだった。冷静に光流はそう思う。
しかしそうは思っても、体の反応まではコントロールできなかった。
「つめてーっっ!!!!」
忍は跳ね上がる光流の肩を押さえつけて立ち上がることを許さず。シャワーの冷水を熱湯のかかった部分に浴びせかけた。
湯を浴びて痛んでいた足は、今度は冷水に痺れて痛み出す。
「ひぃーーーーーーっ!!!!」
「…我慢しろ」
涙目の光流に冷たく告げて、忍は冷水をかけ続けた。
すると、玄関のベルが鳴った。
アパートが震えるほどの大音声で叫んでしまったのだ。近所の人が何事かと思っているに違いないと、光流はその時はじめて思い当たった。
忍は舌打ちすると、シャワーヘッドを光流に押し付けた。
「いいか、俺が戻るまでかけ続けろよ。怠ったら全身濡れ鼠にして表に叩きだす。…わかったな」
怖ろしく怒気のこもった声だった。光流はその勢いに飲まれてただカクカクと頷くと、水浸しになった床を避けようもなく踏みながら玄関に向かう後ろ姿を見送った。
訪問者に向けられる忍の愛想のいい声を聞きながら、足に水をかける。たとえ見ていなくても、サボればなぜか忍にはわかってしまうだろうと長い付き合いでわかっていた。
忍はそのまま外に出て行った。隣近所に騒ぎの説明に行ったのだろうと思う。
そこではっとした。
忍の足も、光流に水をかけたり、その辺を歩いたりして濡れていた。
光流はシャワーヘッドを放り出し、後を追う。玄関を出て、寒さに震えながら辺りを見回すと、鉄製の階段を下りていく忍がこちらを見ているのに気がついた。
「忍、お前濡れて…」
「光流。約束をやぶったな」
対外用の完璧な笑顔から放たれた忍の言葉は、外気より遥かに冷たかった。
「いや…、でもさ」
「戻ったら、覚えてろ」
口を開けて言葉を失っている光流を置いて、忍は階下へと姿を消した。
「ひっでーよアクマだよお前はよ本物だよするかなフツーこんなことをよ信じらんねー…」
「うるさい黙れ」
がたがたと震えながら延々と続く愚痴を、忍の不機嫌な一喝が遮った。
近所に騒ぎの説明を終えて戻った忍は、半分だけ言ったことを実行した。
玄関の辺りをうろうろしていた光流を風呂場に引きずり込み、冷水シャワーを頭から浴びせかけたのだ。
さすがに表に放り出すことはしなかったが、『脱げ』と一言命じてジーパンを脱がさせ、火傷の程度が大したものではないと知ると『風邪を引いても面倒は見ないぞ、早く何か着ろ』と思い切り見下した顔で言い捨てたのだった。
「…ひでーよまじで」
「お前が悪い」
全身ずぶ濡れにされた後、慌てて服を着替えた。パジャマ代わりのジャージの上下にセーターと半纏を重ね着して、足元は靴下を2枚重ねて履き、毛糸の手袋にマフラーまで巻いた。
完璧にドライヤーで髪を乾かしたが、それでも寒くて布団を被っていた。震えの止まらない惨めな有り様の光流だったが、忍の言う通りだと文句を言う口を閉ざした。
そもそもは自分がこたつを壊したことが始まりだった。火傷を負ったのも光流が横着したのが原因だ。
忍は言わば被害者だった。この寒い夜にこたつもなく、同居人の火傷の世話で冷水を浴びて、その上水で足を濡らした状態で近所周りをさせられた。
うんざりしているだろうと伺うと、不機嫌さより、顔色の悪さが目に付いた。
「お前、寒いのか?」
「え?」
本人に自覚がないのか、聞き返してくる。
「なんか顔色悪ーぞ?」
「…いや、別にさっきと変わらないが」
不思議そうな様子に嘘は感じられなかったが、心配になって額に手を伸ばす。
触れた額は冷たい指先よりも熱をもっていて指に痛みが走る。しかし、熱を出しているといえる程の熱さとは思えなかった。
しかし、ついさっき体を冷やしたばかりですぐに症状が出るとは限らない。忍は風邪を引きかけているのかも知れなかった。
「別に大丈夫だよ」
忍は鬱陶しげに、いつまでも額に当てられている光流の手を払う。
その手を、光流は握りこんだ。
「何だよ」
「…冷てー…」
「別にいつも通りだって言ってるだろう」
手を振って光流の手から逃れようとするが、光流は暴れるその手を離さなかった。
光流の手も痺れるほど冷たいというのに、忍の指は光流に残っているほんの僅かな温かみさえ奪い去ってしまうかのように冷えていた。
忍は怒ったような、困ったような微妙な表情で、光流の拘束を逃れようとあがき続けている。
忍には稀な、取り乱しているとさえ感じさせる姿だった。
こんなにも冷たい手をしているのになぜ自分の手を振り払おうとしているのか、光流には判らなかった。
まるで、血の通っていることを感じさせない指先。
こんな手にさせたのは、間違いなく光流だ。
この手をこんなに冷たいままにしておくなど考えるのも嫌だった。
なのに忍は抵抗を止めようとはしない。
「…大人しくしてろって!」
光流は思わず声を荒げた。
忍の動きが止まる。
光流は一つのことしか考えられなくなっていた。
暖めたい。
忍の背から布団を剥ぎ取ると、体の前に強引にかけ直す。
開いた背に自分の背を押し付けて、光流も布団を被りなおした。
布団の中で背後に両手を廻し、忍の両手を捕らえて包み込む。
手を握り締めた瞬間、忍の体が明らかに強張った。しかし今度は光流を振り払うような真似はせず、忍はそのまま光流に両手を委ねた。
冷たい指が、感覚も不確かなまま探るように絡められる。
やがてどちらのものかも判らない熱がこもり始めた。
痛みを伴うただの血液の流れだった熱が、やがて温もりといえるものに変わっていく。
背中にじんわりと広がっていく、他人の温度。
それをはっきりと光流が認識したとき、自分でもぎょっとするほど心臓が跳ね上がった。
(何やっているんだ俺達…。いや、俺か)
強引にこの体勢に持ち込んだのは自分だったと思い返す。
意識した途端、光流は忍に背を預けきることができなくなった。
ほんの僅かではあるが、背中を浮かす、決して楽とは言えない姿勢で、両手を絡ませていることは馬鹿らしく思えたが、なぜかその指を自分から離すことができない。
触れ合う肌は、すでに汗ばんでさえいた。
忍が何をしているのかも何を考えているのかもまるで判らない。ただ、光流に手を握り締められたまま心持ち頭を下げている様子は、先程までこたつの上に広げられていた雑誌に見入っているようにも思えるが。
光流はいたたまれずに身じろぎした。
と、忍の被っていた布団がずり落ちる。
布団をかけなおすためにこの指を忍は離すだろう。何しろ部屋の温度は真冬の外気とほとんど変わらないのだ。布団を被らなければ耐えられるはずがない。きっとそうするはずだ。
光流は絡んだ温もりが離れるのをただ待った。
しかし、手の中の温度はいつまでたっても消えなかった。
忍は動かない。下を向いたまま、動こうとしない。
なぜ動こうとしないのか。
そんなに雑誌に集中しているのか。
このままでは忍が風邪を引く。
わかっていても、光流の指先も忍を解放しようとはしない。
光流は困惑した。
(…なんで、こんなこと…)
その時、甲高い音が響き渡った。
2人の体が跳ねる。
指が、解けた。
勢いよく蒸気を噴出して、やかんの笛の音が湯が沸いたことを知らせていた。
先程の騒動にこりず、やかんと、今度は多少学習して片手鍋をコンロにかけていたのだ。
光流は立上り、コンロのスイッチを消す。
途端に部屋が静まり返り、忍が布団を体にかけ直す衣擦れの音までもが耳についた。
光流は、リビングの同居人を振り返ることはせずに、やかんをもって風呂場に向かう。
浴槽の蓋を開けると、先程よりもやや勢いを失った湯気が立ち込める。
しかしそこに熱湯を注ぐと、ものすごい勢いの湯気が出て、たちまち光流の全身を覆った。
そして、背と指先に僅かに残る微かな熱を消し去った。
ぐずぐずしてはいられないのだ。次々に湯を沸かさなければすぐにお湯はぬるくなる。
「まだまだ当分入れそうにないぜ?」
風呂場の外で布団を被っている同居人に声をかける。
声が震えるのは寒さのせいだ。
光流はそう、自分に言い聞かせた。
FIN
2005.12.26
年表埋めなくては、と年表シリーズ書いてしまいました。
今後は、もっとこのシリーズを埋めていきたいです。
めりぃの主な妄想はこの時系列で行なっていますので。
こんな感じで大学生活を送るようです…(いや、もちろん自分で妄想したのですが)。
まさに生殺し…。
※画面を閉じてお戻りください。
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